タクティカル・シラット

 東南アジアで普及している武術「シラット」のセミナーを開催しています。
 シラットには突きや肘や蹴りなどの打撃のみならず関節や投げ技を豊富に含み、また武器術も多岐に渡ります。
 ぜひ一度シラットを体感してみて下さい!(*'▽')

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カランビットのお話(まとめ)

 ※以下は2018年2月~3月に書いたカランビットのお話5回分をまとめたものです【第一回】 シラットに興味を持つに至った過程は様々ですが、大概は大きく2つに分けられると思います。 ひとつは映画やドラマ、アニメなどでのシラットのアクションシーンを見てシラットに興味を持つパターン。もうひとつはカランビットという武器にまず興味を持ち、そこからシラットに興味を持つパターンです。それ程カランビットはシラットと密接なつながりを持つ武器だと言えると思います。ちなみに私はシラットを何も知らないまま友人に誘われてセミナーに参加し、そこからシラットに興味を持ち始めた珍しいケースです(笑)。 そんなシラットと非常に密接なつながりのあるカランビットですが、その魅力は意外と知られていません。知られていないというか、それを伝えられる人があまりいないのですね。【第二回】 カランビットの特徴は大きく2つあり、ひとつはフィンガーリングと呼ばれる指を通すための輪があること、もうひとつは刃が三日月状に曲がっていることですね。 そしてその特徴が武器としての様々なメリットを生み出しています。 まずフィンガーリングについて。 元々カランビットは農耕具だそうです。小型の鎌のように使います。 通常の鎌ですと高いところにある木の実を採ったりする際、握力が利かなくなったり滑ったりして下に落としてしまうと危ないですし、拾いに行くのも大変です。 そこで、フィンガーリングを付けて小指に通して握ることを一人の天才が思いついたのでしょう。これにより下に落とさなくなったばかりか、強く握らなくてもグリップが滑らなくなり手も疲れなくなりました。 この利点が武器としてカランビットを使う際にも実に重要な利点となります。 一つ目は、武器を落とさなくなること。 ナイフなどの小型の武器同士で戦う場合、相手の武器を持っている手を攻撃する「デファング・ザ・スネーク」という武器術の最重要コンセプトのひとつがあります。 要は相手にナイフなどの武器を使わせないようにすることを第一目標に置くわけです。 このデファング・ザ・スネークはなにも武器で攻撃するだけではなく、例えばストリートでのナイフファイトの場合、靴で相手のナイフを蹴り上げて落とすというコンセプトがありますが、カランビットはこの手の攻撃が効きにくいのです。蹴りが見事にカランビットに当たってもナイフ等とは異なり下に落ちることはまずありません(手は痛いと思いますが(笑))。【第三回】 続きとして、フィンガーリングがついていることの他のメリットを書きたいと思います。 これは武器が手から離れない事と共通するのですが、離れない事で生じるメリット、それはカランビットを持った手で相手の手首などの「物を掴める」という事です。 近代シラットの武器術では武器を持っている手を”Dead Hand(死んだ手)”、武器を持っていない手を”Live Hand(生きている手)”と呼びます。私が初めてこれを聞いたとき、逆ではないのかと思いましたが、理由を聞いて納得しました。 つまり、武器を持ってしまうと武器以外の物を掴むなどの事ができなくなるため、用途が武器を持つことだけに限られるという意味でデッドハンドと呼ぶのです。 しかし、カランビットは手を開いても手から離れず、武器を持った手で相手の手首などを掴むことができるのです。 例え両手にカランビットを持ったとしても、両手ともライブハンドのままなのです。 これにより、ナイフ術よりもカランビット術の方が攻撃のバリエーションが格段に増えるのです。【第四回】 今回はフィンガーリングの利点の3つ目です。 カランビットとナイフを目の前に出し、どちらかを使って戦って下さいと言ったらほぼすべての人はナイフを選ぶはずです。もちろんナイフやカランビットの大きさ、刃渡り、両刃かどうかという点も影響しますが、通常ナイフの方が刀身が長いものが多いでしょう。 その刀身の長さが戦闘においては圧倒的に有利ですので、ナイフの方が魅力的に映るはずなのです。 カランビットはその点においてナイフに一歩リードを許すことになります。 しかし、それを補う技術として「フレイル(エクステンド)」という技術があります。 人差し指に掛けたカランビットを前に振り出して打ったり切ったりする技術です。 これによりグリップ一つ分の刀身を稼げますので、刀身の短いカランビットでもナイフと対抗できるのです。 またこの技術により相手のガードを掻い潜ってダメージを与えることができるようになります。【第五回】 今まで述べてきたようにカランビットはフィンガーリングがあることにより様々なメリットがありました。 今まで述べてきた事以外にも、握る手がつかれない、武器が滑らない、リング部分で攻撃できるなどメリットの枚挙に暇がありません。 そしてさらに、カランビットはその三日月状の刀身から実にシラットの攻撃方法と親和性が高い武器と言えます。 つまりシラットの突き、拳槌(ハンマーパンチ)、肘の攻撃方法がそのままカランビットで活かせるのです。 すなわち、突きは刃の先端部分、拳槌は外刃、肘(またはフック・アッパー)は内刃の攻撃とそのままリンクしているのです。 素手で攻撃するようにカランビットで攻撃すればそのままカランビットを使えることになります。【加筆】 それだけでなく、フレイルの際先端が曲がっているためカランビットを引くことで容易に切ることができますし、フックアッパー系の突き(ソンキット)で攻撃すると刃が食い込むように切れるので大ダメージを与えることができます。 以上のようにカランビットは凄い武器なのです。 

格闘技と武術について(加筆2)

 ただ誤解があるのが、武術も実際に戦うときには筋力があった方がいいのです。 当たり前のことなのですが、武術は戦うときも筋力がいらないと思っている人が多いですよね。よく武術の謳い文句として、「力のいらない練習なので女性や子供でも習得できます」とあります。これ自体は嘘ではない(はず)ですが、やはり力で対抗されるとかからないことが多いです。 じゃあ武術なんか意味がないというかとそうではありません。  私は武術とは「力効率」だと考えています。  要は少ない力で大きな力を得る技術のことです。 例えば、腕相撲をするとします。力の均衡している者同士で一方が相手の手首を持って腕相撲をすると、手首を持たれている方が勝ち、手首を持っている方が負けます。 武術とはこのように腕相撲で相手に手首を持たせるような技術なのです。 ですが、小さい子供の手首を大人が握って腕相撲をしても、力の強い大人が勝つでしょう。 武術家との戦いにおいても同じことが起こりえます。 効率的な技の掛け方をマスターした人であっても、それを上回る筋力を持っている人にはかからないことはままあります。 ですが、筋力の強い人に技がかからないといっても技ができていないわけではありません。それは腕相撲の例でもわかると思います。相手に手首を持たせられたとしても(技が正しくかかったとしても)、勝てるとは限らないという事です。ただ、圧倒的に有利になっているというだけです。  武術家は高齢になるにつけ筋力が落ちて、これと反比例してどんどん技が洗練されていることになりますが、トータルで強くなっているかは別問題という事になります。 もちろん強さとは筋力と技術だけで測れるほど単純なものではありませんが、筋力と武術や格闘技の関係が理解して頂けたら幸いです。 タクティカル・シラット 岩田  

格闘技と武術について(加筆1)

 このところ格闘技と武術、武道について述べてきましたが、その中で一点質問がありましたので加筆致します。 筋力は武術習得について有害にすらなりうるという点です。 筋力は格闘技をするに当たっては必要不可欠でしょう。 ところが武術の習得では有害ですらあるとはどういう事でしょうか。 格闘技も武術も「強くなる」という目的は同じはずです(武道は建前上(?)人格形成が目的ですが、本質は同じだと思っています)。 なのに片や必須で片や有害と言うのは少し面白いですよね。  答えは至ってシンプルで、武術の習得において筋力があれば効率的な方法(=正しい技の掛け方)でなくても技が掛かってしまうので、正しい技の掛け方を覚えなかったり、間違っていても気づかない点にあります。 ですので、筋力は武術の「習得」には不向きなのです。なので武術によっては一切の筋トレを禁じているところもあります。もちろんきちんと脱力できれば無害ですが、これがまた難しいですよね。 力でも技が掛けられればいいじゃないか、という方もいらっしゃいますが、武術の練習においては技が掛かるかどうかではなく、正しく(効率的な方法で)掛けられているかが重要なのです。力が強い人も、自分以上に力の強い人には一切効果がないのでは武術をやっている意味がありません。自分よりも筋力の強い人と戦う必要があるときの為に、普段は力を使わずに正しい方法を学ぶべきなのです。 続きは次回に タクティカル・シラット 岩田      

格闘技と武術について5

 今まで格闘技と武術について述べきましたが、あとひとつ武道について書きたいと思います。 主要武道9連盟が加盟する日本武道協議会は「武道は、武士道の伝統に由来する我が国で体系化された武技の修錬による心技一如の運動文化で、柔道、空手道、剣道、相撲、弓道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道などを修錬して心技体を一体として鍛え、人格を磨き、道徳心を高め、礼節を尊重する態度を養う、国家、社会の平和と繁栄に寄与する人間形成の道である。」と制定しているそうです。 つまり、近代の日本では格闘技や武術と呼ばれるものは「武道」としてひとくくりにされ、本来人を傷つけ殺める手段である技術を武士道由来するものとし、人間形成の手段としているのですね。ですので近代以前の日本の武術・格闘技≒武道だと言って差し支えないと思います(キックボクシングは日本発祥ですが、現代に考案されたもので武士道と結び付けられません。ですので格闘技カテゴリーだと考えています。あと修斗とかでしょうか)。 逆に海外の武術や格闘技が「武道」と呼ばれることもありません。武士道と関わり合いがないからですね(某国の日本の武道そっくりなものについてはなんともいい難いですが)。 この「格闘技や武術をひとまとめにして人間形成の手段としての武道と称する」試みは実にうまくいっていて、例えば剣道は「本来」日本刀で切り合う練習をするもののはずですが、武士道(礼節)を加味することで剣道をやっている人を野蛮であるとか危険人物であるとか評価する人はまずいませんね。ですがこれがナイフ術となると途端に危険なにおいがしますよね(笑)。お見合いの席で特技を聞かれ「剣道です」と答えれば真面目そうとか礼儀正しそうとかいう評価でしょうが、「ナイフ術です」と答えたらまず確実に破談です。完全に変人扱いです。「本来」日本刀の練習かナイフの練習かの違いだけのはずなのですが。 もちろん礼節は大切です。野蛮とも思える技術を練習するからこそ大切です。 タクティカル・シラットでも練習相手と組手を始める前と後には相手に礼をします。 礼法は今のところ特に定めていません。形ではなく、相手に敬意と感謝を表すこと自体が大切だと考えているからです。タクティカル・シラット 岩田

格闘技と武術について4

 今まで述べた通り、私は格闘技と武術の違いは禁じることの違いだと思っています。 すなわち、危険攻撃を禁じているのが格闘技で、全力攻撃(武器術についてはそもそも攻撃を当てること)を禁じているのが武術です。 もちろん中には危険攻撃を禁じながら全力攻撃をしないものもありますし、ひとつの道場で試合形式の練習と組手をする所もありますが、その本質はどちらにあるのかということで区別がつきます。 そして、危険攻撃の禁止とはルールに他ならず、ルールがあればそのルール内での優劣を競うのが常ですので、試合が生まれます。ですので、試合に勝つのが本質かどうか(くだけた言い方をすれば試合で優勝するのが一番価値があるのかどうか、練習の主目的が試合に勝つ事にあるのかどうか)で区別すれば両者は区別できることになります。 具体的に言えば、ボクシングやキックボクシング、総合格闘技、レスリング、散打などは格闘技。その名の通り日本の古武術や少林寺拳法、中国拳法などは武術です。 タクティカル・シラットはそもそも試合がありませんので武術のカテゴリーに入ります。他のシラット、特に伝統派では試合のあるところもあります。しかし個人レベルで試合に勝つ事を目的として練習している人はいるでしょうが、流派自体が試合に勝つ事を主目的としているところは私の知る限りありませんので、全て武術としてよいかと思っています。あくまで副次的に試合形式の練習もしているという理解です。 あと、武道という言葉もありますね。この武道は格闘技や武術とどのような関係にあるのでしょうか。 続きは次回に…タクティカル・シラット 岩田 

格闘技と武術について3

 今までに、いわゆる格闘する技術は練習方法により2つに大別でき、そのうちのひとつは相手を壊してしまう、または殺してしまうような危険な攻撃は禁じる反面(ルールの制定)、ルール内では全力で攻撃し合い、かつ試合という形式で争えるもの、すなわち「格闘技」と呼ばれるものでした。 これに対してもうひとつは、一番効果的な、一般的に禁じ手と呼ばれる攻撃(目潰し、喉潰し、噛みつき、指折り、金的など)を取り混ぜながら、または武器で相手を攻撃する練習するを反面、全力でそれらの攻撃を当てると相手が怪我をしてしまうので当てる寸前で止めたり、手加減したり、または型稽古をする練習方法です。これが武術と呼ばれるものですね。 武術は危険で効果的な技術を習得できる反面、全力で攻撃し合うことをせず、また相手が攻撃に抵抗することも原則ありませんので(そういう練習をしているところもありますが、それも想定に則って行われていますね)、筋力を鍛え攻撃に耐えられる体を作りスタミナをつける必要がありません(むしろ「技の習得」という意味では筋力は有害ですらあります)。もちろん武術の流派によっては「強さ」のためにそれらを鍛えるトレーニングをしているところもありますが、武術の習得自体に必要なものではありません。 禁じ手や武器による攻撃は、筋力に基づく強い打撃である必要はありませんので、強く攻撃するためのトレーニングをしないことが多く、素手では格闘技の攻撃よりも打撃力は劣ることが多いです(その分効果的な攻撃方法の習得に心血を注ぐわけですが)。またその武術が想定している攻撃以外は対処が難しいです。そして相手が全力で攻撃してきた場合、それに耐えうる体に鍛え上げていない事がままあります(武術的には受けないのがが最良ということもあるでしょうが)。さらに長時間動き回ることも想定していない武術では、スタミナもあまりつきません(もちろんその武術的にはスタミナは必要がないという考え方なわけです)。続きは次回に…タクティカル・シラット 岩田